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第279話 

「松本若子」この四文字が遠藤花の口から出た瞬間、遠藤西也は動きをピタリと止めた。

「スマホ、返してよ」遠藤花は手を差し出した。

「遠藤花、こうしないか。俺たち、取引しよう」

遠藤西也は冷笑を浮かべ、続けた。「スマホをロック解除して、素直に何を話してたか見せるか、あるいは、今すぐ親父に電話して、お前が彼の大事なアンティークを割ったことを伝える。俺は助けるのを断り、お前の悪事を暴露してやる。親父がそれを知ったら、どうなると思う?」

遠藤花の顔色が次第に暗くなっていった。「遠藤西也、私たち運命共同体でしょ?」

西也はスマホを振りながら、「俺にチャットを見せないなら、俺たち運命共同体じゃない」

遠藤花は拳を握りしめた。「アンティークの件、あなたも共犯じゃない!」

「共犯かどうかは俺が決める。親父が信じるのはお前の言葉か、それとも俺の言葉か?親父が一番大事にしている花瓶を割ったって知ったら、まずはお前をさんざん叱ってから、財源を断ち切り、お前を家から追い出すだろう。そうなったら、お前が俺に泣きついてきても、一銭もやらないぞ」

「くっ…」遠藤花は目を大きく見開き、「じゃあ…若子にこのことを伝えるよ、あなたの……」

「若子を出して脅すのはやめろ」遠藤西也は薄く微笑んだ。「お兄ちゃんにはお前を懲らしめる方法がたくさんある。もし親父に追い出され、クレジットカードも止められたら、さらに追い討ちをかけてやる」

穏やかな声色に潜む陰険さが、全身に寒気を走らせた。

遠藤西也は決して陰謀や策略を弄さないわけではなかった。商業の世界は、日々状況が激しく変化し、煙のない戦場とも言える。その中で彼が天真で善良な男であるわけがない。

彼の態度や計算高さは、相手次第で決まるのだ。

もし相手が狡猾で奸智に長けた人物であれば、彼もまた真の狡猾さを見せつけ、その人物に何が本物の策略かを教え込むだろう。

しかし、相手が「松本若子」であるならば、彼は紳士そのものとなる。

彼にとって人と獣を扱う基準は明確に異なるのだ。

西也が完全に主導権を握り、薄く微笑むと、彼はスマホを彼女の手に押し戻し、腕を組んで黙ったまま見つめた。

遠藤花は悔しさで体中が火照り、頬を膨らませながら睨みつけ、最後には観念して指紋でロックを解除し、チャットの画面を彼に差し出した。

「意地悪なお兄ちゃん、覚えてな
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